信州の伝承文化 -長野県無形民俗文化財-

天龍村の霜月神楽 信州最南端に伝わる湯立神楽

国重要無形民俗文化財 【天龍村】

由来・次第

 天龍村には「坂部の冬祭り」「向方のお潔め祭り」「大河内の池大神社の例祭」とよばれる3つの祭りがある。昭和53年(1978)には、これら3つを一括して「天龍村の霜月神楽」として国の重要無形民俗文化財に指定されている。
 これら3つの祭りが行われる天龍村神原地区は天竜川西岸にある。同じく西岸にある阿南町新野の神楽や愛知県豊根村の奥三河の花祭り、大谷の御神楽、天龍川東岸にある遠山の霜月祭り、天龍村中井侍の神楽、静岡県浜松市の水窪町の神楽など三遠信の国境一帯に広がる湯立神楽の一大分布圏にあって、とりわけ古い形式を伝える祭りとして注目されてきた。
 その特徴は、いずれも冬(本来は旧暦霜月)の一夜を徹して、湯立てと舞とが繰り返され、全体に神事色がきわめて強いところにある。それとともに、神子(かみこ)とも宮人(みょうど)ともよばれる人々が一生涯祭りに奉仕したことと、例祭とは別に「お清め祭り」などとよばれた臨時祭があったところに大きな特徴がある。どちらも立願によるもので、人々が祭りによせた祈りの強さを物語ってくれる。
 3つの祭りを比較すると、向方と大河内の祭りは共通性が強く、坂部の祭りも、うたぐらなどに似たところが少なくない。大河内は歴史的に向方の枝郷であり、のちに三河とのつながりを深めたため、変容がより進んだものと考えられる。祭りは地域の事情にあわせて個性を育みながら伝えられてきた。

(写真 天龍村教育委員会)

 

≪坂部の冬祭り≫
 坂部では、1月4日から5日にかけて、諏訪神社で坂部の冬祭りが行われる。もともと「霜月祭り」とか「冬の祭り」とよばれていた。この例祭とは別にお清め祭りとよばれる臨時祭があったが、昭和28年(1953)に例祭に組み込まれ、以来この形が踏襲されている。坂部に伝わった「熊谷家伝記」によると、正長元年(1428)に熊谷直吉が館を坂部本村に移したとき、夢占いによって神楽を始めたと記されており、これが坂部における神楽の始まりとされている。面形の舞が行われ「たいきり面」が火の粉を飛び散らす場面では祭りは最高潮を迎える。

●開催日/1月4日~5日
●開催地/天龍村神原坂部 諏訪神社

 

≪向方のお潔め祭り≫
 向方では、1月3日に天照大神社で向方のお潔め祭りが行われる。本来この名は、国家や村全体の祝いあるいは個人の大願がかなったときだけに行われた臨時祭をさすもので、例祭とは別の祭りであった。例祭と臨時祭の名が混同されるようになったのは、昭和49年(1974)に国の選択無形民俗文化財になるにあたって、臨時祭の名が採用されたためである。面形のない湯立神楽で、扇、やちご、剣などを手に舞い、また神々への湯立てを行う。

●開催日/1月3日
●開催地/天龍村神原向方 天照大神社

 

≪大河内の池大神社の例祭≫
 大河内では、1月5日に池大神社の例祭で湯立神楽が行われる。この例祭の呼び方は、臨時祭の「うち祭り」に対して「もり祭り」とも「霜月祭り」とも呼ばれた。昭和49年(1974)に国の選択無形民俗文化財となったときから「池大神社の例祭」とよばれた。向方のお潔め祭りと同様に面形のない湯立神楽である。最後の鎮めの舞には、大河内の舞すべての要素が入っているとされる。

●開催日/1月5日~6日
●開催地/天龍村神原大河内 池大神社

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