ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.19 花馬の歴史とともに 田立の花馬祭り

和紙の里として知られる南木曽町田立(ただち)地区では、毎年秋、五穀豊穣への感謝と、安産、家内安全などを祈願し「田立の花馬祭り」が行われます。祭りの起源は約300年前にさかのぼることができます。
祭り当日は田立駅前広場より花馬行列が五宮(いつみや)神社へ向かってゆっくりと練り歩き、先頭馬には神が宿るヒモロギを、中馬には豊作を表すキクを、後馬には南宮社社紋の日月の幟を立て、そのまわりに、細く割った竹に五色の色紙を飾りつけ、稲穂を形どった花を365 本差し回します。花馬行列が神社へ到着し、境内を三回まわり終えると、見物人はいっせいに馬に飛びついて花を取り合います。取った花は家に持ち帰り、家の入り口にさすと家を疫病神から守るといわれています。
神馬は古来より伝わる木曽馬で、県の天然記念物に指定されており、神馬2 頭は花馬祭り保存会で大切に飼育されています。「勤め人だった頃には馬を飼う自信などありませんでした。馬は生きものですから気を遣います」。飼育係である桜井忠孝さんの言葉どおり、馬の世話には休みはありません。
「祭り1日のために馬を飼っている」と笑う保存会の皆さんですが、かつて人々の暮らしは馬とともにありました。農耕用に飼われていた木曽馬は、昭和30年代以降減産の一途をたどり、一時は馬種の維持さえ困難な状況になりました。そのため、一時期は神馬の用意に大変な苦労があったそうです。
花馬祭りは長野オリンピック閉会式に参加したことで有名となり、最近では各地のイベントに招待されることも多くなりました。一方で「花馬祭りは人に見せるだけではなく、地域の安寧や豊作への感謝、家内安全を祈って奉納するものです。地域のみんなが集まり毎年続けることこそ先祖から伝わる伝統を守ることになる」と五宮神社宮司の高橋邦衛さんは言います。
祭り当日は子どもみこし、花馬行列、田立歌舞伎などが朝から夜まで続きます。子どもからお年寄りまで人々が集い参加する花馬祭りは、かつて人々と共生した木曽馬の歴史とともに受け継がれています。

「田立の花馬祭り」(平成5年長野県無形民俗文化財指定)
花馬祭りはかつて美濃から伝わったといわれ、長野県内では田立のみで行われている。昨年までは10月3日に開催されていたが、本年より10月第1日曜日に変更された

竹薮(たけやぶ)から竹を切り出し、和紙で紙縒り(こより)を作って花をつける。花の材料はすべて田立産のもの。花作りは、竹割り、紙縒り作り、花付けなど、すべて保存会を中心とした地域の人々による手作業で行われている

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