ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.08 豪雪地帯で庭園を守る 曹洞宗示現山長谷寺庭園

曹洞宗示現山長谷寺(しげんざんちょうこくじ)は長野オリンピックで数々の感動を生んだ北安曇郡白馬村白馬ジャンプ競技場のふもとにあります。大伽藍を囲む庭園は前庭と裏庭があり、本堂と庫裡(くり)の裏庭は江戸初期末に造庭された白馬村最古の流水式の池泉観賞式庭園として、白馬村名勝に指定されています。この庭園は約7キロメートル離れた五竜岳より雪解け水を引いて川のようにくねらせた細長い池に流す様式が特徴で、庭園と一体をなす裏山の杉林と合わせて閑寂とした趣きを醸し出しています。
この地域は長野県屈指の豪雪地帯にあたり冬になると積雪量が2メートルを越すこともあり、落ちた屋根雪によって建物などが圧迫され損壊する恐れがあるため、10月下旬から建物などに雪囲いを施す習慣があります。長谷寺も伽藍や前庭の植木には雪囲いを用いますが、裏庭は越冬のために人工的に手を加えることはせず、植物の持つ生命力にまかせます。
「なるべくね、自然にできたものを、そのまま育てるようにしています」。住職の森道雄さん(74歳)は庭園を我が子のように慈しみます。長谷寺庭園には日本固有種の山野草「フシグロセンノウ」が初夏にかわいらしい朱色の花をつけます。冬をじっとしのぐ姿はよく見ないと他の雑草と見分けがつかず、以前は草刈機を使用していたため知らずに刈ってしまっていました。平成9年の夏に、住職が一輪の花を見つけ、絶えることなく永らえてきた花の生命力に感動し、人間の身勝手さに重い責任を感じたことを機に地元造園師の手を借りて一本一本、花を確認できる手作業に変更しました。「雑草だってつる草だって同じでしょ。だから雑草にもゴメンネ、って謝りながら手入れをしているのですよ」
この庭園を眺めていると、近頃の悲惨な事件で命が軽く扱われていることを憂い、人や花の命の尊さを説く住職の強い思いが伝わってきます。

池には錦鯉が泳ぎ、冬は住職手作りの雪除け屋根の下で越冬する。フシグロセンノウや村花のカタクリ、シラネアオイなどが季節ごと目を楽しませている。

曹洞宗示現山長谷寺庭園(北安曇郡白馬村)
平成13年白馬村名勝に指定。古格にのっとる造園方法で後世の改造が無く、実際に水が流れる流水式の池泉観賞式庭園は全国的にも珍しい。冬場は庭園のほとんどが雪の下に埋まる。

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