ふるさとの文化財を守り伝える心

vol.29 藁馬に願いを込めて 桐原牧神社の藁馬づくり

毎年3月8日に、豊作・商売繁盛・子孫繁栄・交通安全を祈願して行われる長野市の桐原牧神社春季例大祭のわら駒神事は、今からおよそ200年前の桐原村に伝わる古文書(享和2年)に記録が見られます。桐原は古くは名馬の産地であったと伝えられており、良馬生産の願いを込めた神事が、長い歴史のなかで様々な祭りの要素を加え現代に受け継がれています。
桐原の区誌編纂に携わる中澤信雄さん(69歳)のお話によると、かつて祭りには各家から一体の藁馬が奉納されていましたが、現在は桐原牧(わら駒)保存会の皆さんの手によって作られています。奉納された藁馬は宮司のお祓いを受けた後、神馬として参拝者にくじ引きで授けられます。精巧で気品に満ちた藁馬は全国的にも有名で人気が高く、祭り当日は藁馬を引き当てようと遠方からもたくさんの人々が参拝にやってきます。
奉納される藁馬づくりは、長野市選定保存技術として保存会が技術の継承に努めています。祭りの時期が近づくと、製作の技術保持者を中心とした保存会員13名で300体ほどの藁馬を作ります。保存会副会長の山岸勝さん(65歳)によると、細部まで手の込んだ藁馬は熟練した人でも一体作るのに半日かかり、技術の継承者が限られているため、製作の時期は忙しさに追われるといいます。
桐原に暮らす人々に藁馬を知ってもらい、大勢の人に藁馬を作れるようになってほしいという思いのなかで、近年、保存会が中心となって藁馬づくりの講習会に力を入れています。年末に行われた講習会では、小さな子どもたちが、ふだん手にすることのない藁に触れて賑やかな歓声をあげていました。「子どもの頃から藁に親しみ、大人になってから藁馬を作ろうと思う人たちが出てきてくれればいいですね」。山岸さんの穏やかな眼差しに期待が込められています。また、中澤さんは、「藁馬づくりに関わることで地域との絆が深まりました」と語ります。保存会の活動は、継承者を育てるだけでなく、藁馬を通じて桐原に暮らす人々に、心の拠りどころをもたらす大きな力を生み出しています。

「桐原牧神社の藁馬づくり」(平成14年 長野市選定保存技術)「講習会では、皆さんそれぞれ人の藁馬の良いところを見て学んでいます」講習会で藁馬を作る保存会の皆さん。

平成22年3月8日桐原牧神社春季例大祭。氏子総代宅より50名ほどの行列が藁馬を奉納するため、桐原区内を練り歩き神社へ向かう。神社の歴史は桐原牧の最盛期とされる、1000年~1500年前にさかのぼるともいわれる。

▲ページの先頭に戻る