ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.12 祈りを龍に託して 里山辺追倉(おっくら)のお八日(ようか)の綱引き行事

松本市内各地では、2月8日に「お八日」「こと八日」「こと始め」などと呼ばれる、厄神を追い出し、人や村の安穏を祈る様々な行事が行われています。その中のひとつに「里山辺追倉(おっくら)のお八日の綱引き行事」があります。
里山辺追倉は松本市の東の端にあります。入山辺と隣接した地区の南斜面に5軒の大久保姓が住んでいます。
2月8日、この5軒では早朝からヌカエブシといって籾殻や唐辛子、髪の毛、ネギ等の臭いのするものを各家の木戸で燃やして厄神祓いをし、その後、餅をついて村境の道祖神にお供えします。
午後は、当家(とうや)と呼ばれるその年の代表者の家に集まり、持ち寄ったワラで龍の形に綱を撚(よ)り、この龍に精進料理とお神酒を供えみんなでいただいた後、車座になり綱の龍を数珠代わりに「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えながら三回まわします。唱え終えると、男女に分かれて綱引きを行います。この綱引きは毎年必ず女性が勝つことで、その年の五穀豊穣、無病息災が約束されると信じられています。最後に村境の道祖神碑にこの龍を8の字に結びつけます。
以前、追倉地区にはもっと多くの家があり、今より大人数でこの行事を行っていました。しかし、現在行事を受け継いでいる家は5軒のみ。勤め人が多く、平日に集まることが難しくなるなか、今でもこの地区では毎年2月8日に集まっています。
「この日にみんなが集まって、お酒を酌み交したり、料理を食べるのが楽しみなんだよ。でも、今はみんな忙しがっていて、なかなかゆっくり話をする時間がなくて寂しいね」と大久保進さん(76歳)は言います。
近隣との関係が希薄になりつつある現在、ごく限られた地域の人々の手でこの行事が300年もの間受け継がれてきた理由の一つには、地域の人々が健康で平和に暮らせるようにと願う強い気持ちがあるからではないでしょうか。
今年もまた、人々の祈りが込められた「龍」が村の境から追倉の皆さんを見守っていてくださることでしょう。

「里山辺追倉の綱引き行事」(平成8年松本市重要無形民俗文化財指定)
龍に見立てた綱を、男女に分かれて引く。毎年女性が勝つことで五穀豊穣、無病息災が約束される。300 年以上にわたり受け継がれている

車座になり念仏を唱えながら綱を3回まわす。結び目が自分のところにきたら、頭を下げる

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