ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.07 湿原の生態系を守るために 居谷里仲間〈居谷里湿原保存会〉

大町市、仁科三湖のひとつである木崎湖近くに居谷里(いやり)湿原があります。
この湿原は、明治40年に周辺の土地所有権を得た13軒で結成された「居谷里仲間」により管理されてきました。昭和30年頃まではハンノキなどの雑木は薪に、湿原に茂るヨシなどは田の苅敷(かりしき)(緑肥(りょくひ))として、地域住民の貴重な生活資源でした。また、この生活資源を得るための草刈りなどを習慣的におこなうことは、湿原に生息する動植物を守ることでもありました。しかし、人々の生活の変容により湿原の利用は減っていきます。さらに、昭和46年には学術的価値から湿原全体が天然記念物の指定を受け、人の手を入れることを禁じられた湿原はハンノキなどが繁茂し、陸地化が進行しました。
平成3年、専門家による現地調査が実施され、平成9年にはハンノキ伐採などの湿原保護対策事業がおこなわれ、以後、湿原は人の手が適度に加わることでかつての姿を取り戻しつつあります。観光客の数も年々増加し年間約1万人を数えるなか、居谷里仲間は市の補助を受け、毎月1、2回の管理区の巡視と遊歩道の草刈りをおこなっています。
「人が歩いてけがをしないように、本来の湿原の姿を破壊しないために、どこまで手を加えるのがよいのか...」。会員の田中一康さん(55才)は湿原保護の難しさを話してくださいました。「観光に来る人のほうが湿原の生物に詳しいよ、もっと勉強しないとね」と、保存会長の傘木繁夫さん(65才)。かつては身近であった湿原。文化財となった今、所有者だけでなく、観光客や地域の人々も"自分たちの湿原"という感覚を持ち、地域の宝として守っていくことが求められています。

湿原にはこの地を鎮める神を祀る居谷里神社がある。毎年、7月初旬の大祭日には居谷里仲間総出で遊歩道の整備等をおこなう。

居谷里湿原(大町市)
昭和46年(1971)県天然記念物に指定。ミズバショウなど湿原特有の植物をはじめ、ハッチョウトンボやモリアオガエルなど多種多様な動植物の宝庫。珍しいハナノキ(ハナカエデ)の北限地でもあり秋の紅葉も美しい。

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