ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.06 木の声を聴く 樹木医 唐沢清さん

長野県では約600件の樹木が国県市町村の文化財(天然記念物)に指定されており、なかには樹齢1000年以上に及ぶ木もあります。緑の文化財とも言うべき貴重な樹木や古木を保存するために適切な診断と治療を施す仕事を担うのが「樹木医」です。
箕輪町在住の樹木医、唐沢清さん(71)は平成4年、長野県で2人目の樹木医に認定されました。樹木医認定制度は平成3年に始まったまだ新しい国家資格です。取得には長年の実務経験や豊富な知識が必要とされるため、長野県には約30名、全国でも1000名ほどしかいません。的確な診断と処置に定評のある唐沢さんは、担当地域以外の県下各地からの要請にも応え、毎年200件ほどの樹木診断に奔走しています。
箕輪町にも、唐沢さんが治療をした木があります。「宮脇のハリギリ」は平成9年、空洞となった内部にシリコンを補填し、ワイヤーで支える治療をしました。このハリギリは、これ以上の手は加えず見守ることにしています。「必要な手助けはするが、手を掛けすぎない。その方が木も強くなるでしょう。あとはその木の生命力にまかせます」。
樹齢1000年といわれる「中曽根のエドヒガンザクラ」(県天然記念物)。新たに出始めていた根の力を損ねないように、空洞に炭と苔を詰めてモルタルで覆うという自然に近い治療法を今年2月に施しました。「治療はこうしなきゃいけない、という決まりはないからね」。木の状態や土壌の様子など周囲の環境を見ながら、その木に適した治療法を考えます。桜はこの春たくさんの花を咲かせました。それでも、唐沢さんは「葉の茂りが淋しいね」と心配そう。こうした陰の支えがあって、長い年月地域に根づいてきた木々の命は後世につながれていきます。

「木ノ下のケヤキ」(県天然記念物)の状態を診る。「ここには虫がついてるね」幹を叩いて音を聞くことで、木の内部の状態がわかる。

宮脇のハリギリ 昭和37年(1962)長野県の天然記念物に指定。樹高約35m、樹齢約300年。日本で2番目に大きい。葉は「天狗のうちわ」といわれる。ウコギ科。

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