展覧会の詳細GALLERY
「信州の鉄道」
栗田 貞多男
①北陸の新たな息吹きを運ぶ、JR北陸新幹線E7系
(長野以北延伸ルート開業、「“和”の未来」を目指す)
1998年、長野冬季オリンピック開催に先がけて開通した北陸新幹線(通称長野新幹線)は、2015年3月14日、新たに金沢までを延伸開業した。この開業に向けて開発されたのが新型車輌E7系であり、2014年3月15日から長野新幹線「あさま」に先行投入されている。
新たなE7系は大人の琴線に触れる『洗練さ』と、心と体の『ゆとり・解放感』をトータルコンセプトにして、首都圏と北陸新幹線沿線を結び、日本の伝統文化と未来をつなぐ「“和”の未来」を目指しているという。日本の伝統的な色使いの「空色、アイボリーホワイトと銅色」をボディカラーとした新E7系は、北陸の奥深さを感じさせ、信州に新たな風を運んでくれるかのようだ。
②天竜川とともに・・・郷土色ゆたかなJR飯田線
(川沿いの人々を支え、繋げる生活路線電車)
長野・愛知・静岡県に跨がる天竜川の流れとともにJR飯田線は走る。ここ天龍峡駅近くは天竜ライン下りの乗船場もあり観光客も多いが、中央・南アルプスに見守られつつ伊那谷をゆったりと流れ下ってきた天竜川は、ここからは愛知・静岡両県の県境に向けて険しい山間を縫うように蛇行し、飛沫を上げて一気に流れ下る。
飯田線も蛇行する川に沿って小さなトンネルを抜け鉄橋を渡り、沿線集落ごとに設けられた無人駅を含む92にのぼる駅に停車しつつ、全長195.7kmを太平洋岸近くの豊橋駅へと至る。沿線には急斜面に作られた茶畑や民家が点在し、郷土色ゆたかな車窓風景が展開する。鉄道マニアにはいくつかの秘境駅も人気がある。
③北信五岳・黒姫山と、しなの鉄道北しなの線
(黒姫駅手前から)
北陸新幹線金沢延伸ルート開業によりJR長野駅から妙高高原駅へと走る旧信越本線は、「しなの鉄道北しなの線」となった。長野駅から善光寺平を北上した電車は急勾配の山間を抜けると一気に展望が開き、黒姫高原に出る。飯縄山・黒姫山・妙高山の山並みを背に数両編成の115系は走る。
この115系は1998年、長野冬季オリンピック開催に伴い、「淡いグレーに水色・リフレッシュグリーン」のボディカラーに統一された。高原を走る電車には、さわやかなこの色調がふさわしい。陽春の5月、春霞の黒姫山がさらに115系を引き立たせてくれた。
④北アルプスの清流・姫川とともに・・・JR大糸線
(信越国境近く、雪解けの姫川支流の橋を渡る)
松本駅から大町を経て新潟県・糸魚川駅に至る大糸線は全長105.4㎞。大町市以南は高瀬川、その北は日本海へと注ぐ姫川に沿って走る。沿線には安曇野や白馬山麓、立山黒部アルペンルートなどの観光地も多く、かつては「塩の道」の街道として信越を結ぶ生活物資の主要輸送路でもあった。
姫川沿いの大糸線は途中、いくつもの鉄橋を渡る。北アルプスの清流を集めた姫川とローカル電車の組み合せは撮り鉄(鉄道写真愛好家)にも人気が高い。
長野・新潟県境の平岩駅近くでは一両編成の小型気動車、キハ120形が雪解けの奔流泡立つ姫川の支流、大所川の鉄橋をゆっくりと渡って行った。
⑤環境世紀にふさわしい高原鉄道・JR小海線
(高原を走るハイブリッド気動車、キハE200形)
山梨県北杜市の小淵沢駅から長野県小諸市の小諸駅を結ぶJR東日本の小海線は、別名「八ヶ岳高原線」とも呼ばれる高原鉄道である。清里~野辺山間には標高1,375mのJR鉄道最高地点があり、広大な高原野菜畑の彼方には八ヶ岳、千曲源流の山々、さらには遠く南アルプスまで望める。
小海線には、キハE200形という発電用ディーゼルエンジンで発電した電気と蓄電池に充電した電気を効果的に利用して走る、ハイブリッド式の気動車も走っている。高原をゆっくりと走るキハE200形は燃料消費量、窒素酸化物などの排出量や騒音をおさえた「環境の世紀にふさわしい」車両である。
⑥木曽路の急カーブを縫って走る中央西線
(特急「しなの」から「ワイドビューしなの」へ)
中央西線は名古屋駅から篠ノ井線を経由して信越本線長野駅までを結ぶ、信州と中京、関西圏を繋ぐ幹線鉄道である。塩尻からは木曽路の山間を南進し、中山道有数の宿場であった奈良井から鳥居トンネルを抜けると、ここからは木曽川に沿って蛇行しつつ走り下る。
その車窓からの見どころの一つが名勝「寝覚の床」(ねざめのとこ)だ。
川沿いの高所を走る車窓からは、木曽路の景勝をつかの間楽しめる。旧特急「しなの」381系は長年、急カーブが連続する中央西線のための振子列車として親しまれてきた。現在ではすべて「ワイドビューしなの」383系に替えられているが、国鉄色と呼ばれるこのツートンカラーを懐かしく想う人も多いだろう。
⑦新宿・松本間を結ぶ、独特のフォルムの特急
(軽量・低重心のモダンな外観「スーパーあずさ」E351系)
中央東線は、新宿駅を起点に篠ノ井線を経て松本駅までを結ぶ。定期運行の特急列車は「あずさ」と「スーパーあずさ」。以前は両列車とも松本駅から大糸線に乗り入れていたが、ダイヤ改正で「スーパーあずさ」は松本駅が発・着駅となった。
「スーパーあずさ」は、アースベージュとグレースパープルの爽やかなカラーで、上方に向かって絞り込まれたスタイルとあいまってジャンボジェット機のようにもみえる。この外観は、中央東線の速度向上を目的に、カーブを高速で通過できるよう、軽量化、低重心化を図って振り子式を採用したことによるもの。独特のフォルムに魅せられたファンは多い。
かつては安曇野を北上した「スーパーあずさ」。その雄姿は、北アルプス後立山連峰の山並みと見事な調和をみせていた。
⑧千曲川に沿って信越県境をゆく飯山線
(日本有数の豪雪地帯を走る生活路線)
飯山線は長野市の豊野駅から千曲川・信濃川に沿って新潟県長岡市の越後川口駅に至るJR東日本の地方路線である。
この沿線は日本有数の豪雪地帯である。信越県境近くに位置する森宮野原駅は1945(昭和20)年2月に旧国鉄の駅における最高積雪量7m85cmを記録した。7m85cmといえば、女子走り幅跳びの世界記録を30cm以上も凌ぐ。
飯山線は、小海線や大糸線、飯田線とともに典型的なローカル線である。
ディーゼル機関車DD16形はローカル線用に開発され、写真の11号機は1972年製造で、飯山線でも永きにわたり貨物輸送や工事用車両輸送、臨時の客車牽引等に活躍してきた。目にする機会は限られたが、地元を支えてきた姿には美しさと頼もしさが漲っていた。
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