展覧会の詳細GALLERY
「信州県境の山並み」
栗田 貞多男
①「浅間山モルゲンロート」
長野・群馬県境に位置する浅間連峰。その盟主が活火山・浅間山(2,568m)である。ゆったりと裾野を広げるコニーデ型の山容、山頂からたなびく噴煙、それは山麓の人々にとっても懐かしい故郷の象徴となっているが、火山活動も注意深く見守られている。
浅間山はまた、島崎藤村や堀辰雄、立原道造など多くの文学・芸術家によっても採り上げられてきた。そして今、長野新幹線「あさま」は、いわば信州の代名詞として広く親しまれている。車窓から覗く浅間山を眺めると、なぜか心が安らぐ。
県境に沿って続く黒斑・籠ノ登・湯ノ丸・烏帽子岳は高山植物や高山蝶の宝庫で、ハイキングコースとしても多くの人が訪れる。
②「北アルプス・後立山連峰」
春、北アルプス北部の後立山連峰は、残雪と新緑のコントラストが美しい。白馬の由来ともなった代かき馬や種まき爺さんなどの雪形巡りも楽しい。富山県側からは霊山として知られる立山の奥に位置することから、後立山と呼ばれた。立山連峰・雄山の山頂から望む後立山連峰からのご来光を、人々は畏敬の念を持って拝してきた。
長野・新潟・富山の県境にあるこの山域は、日本海側から冬の季節風がまともにぶつかり、多量の積雪をもたらす。白馬三山、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、爺ヶ岳など3,000メートル近い高山が連なり、春は残雪と雪形、夏は大雪渓とお花畑、秋は紅葉と新雪の織り成す三段紅葉、冬はウィンタースポーツのメッカでもある。
③「北アルプス・槍穂高連峰」
槍穂高連峰は、日本アルプスのシンボルである。鋭く天を差す槍ヶ岳、岩の殿堂・穂高連峰、それらは標高3,000メートルを超える。槍ヶ岳は北アルプスの只中に長大な4つの尾根を張り、奥穂高岳は富士山・北岳に次ぐ我が国第3位の高峰である。
槍穂高連峰は、北アルプスを代表する縦走路「表銀座」の目指す頂点の山として訪れる人も多く、登山コースも整備されている。槍と穂高を繋ぐ峻険な稜線は長野・岐阜の県境となる。
常念山脈からは、その雄大な山容がパノラマさながら展開する。槍沢や横尾本谷、涸沢などカール氷河の地形が手に取るように望め、それらの谷が合流し梓川となり、上高地へと瀬音を立てる。
④「八ヶ岳・権現岳と南アルプス遠望」
八ヶ岳の主峰・赤岳(2899m)は、長野・山梨県境にある。山頂からは南方に稜線が延び権現岳へと続き、そのはるか先には甲府盆地を挟んで、南アルプスの主峰・北岳や甲斐駒ケ岳などが連なる。
八ヶ岳は、日本列島を太平洋と日本海とに分ける中央(大)分水嶺の山でもある。山域の南面は甲府盆地から太平洋へ下る富士川水系となり、西面は諏訪湖に注ぎ天竜川水系となり遠州灘に至る。一方、東面と北面は千曲川水系として日本海へと北上する。
長野県の県境は、そのほとんどが山々の分水嶺である。そこには峠があり、大自然のドラマがある。県境は自然にとっても人々にとっても二つに分ける地であり、同時に繋ぐ地でもあった。
⑤「北アルプス・穂高連峰紅葉」
(涸沢から/長野・富山県境)
穂高連峰・涸沢(からさわ)は我が国を代表する紅葉のメッカである。上高地からひたすら歩くこと8時間あまり。ようやくたどり着いた瞬間、眼の前には絢爛たる光景が展開する。
ウラジロナナカマドの赤、ダケカンバの黄、ハイマツの緑。さながら大自然が織りなす眩いばかりの織物のように、三色の帯が広大なカール(氷河圏谷)全体を彩る。穂高連峰の大岩峰群がカールを覆いつくす紅葉を見守るかのようにとり囲む。
穂高連峰は長野県と岐阜県の県境にある。この涸沢は長野県側であり、岩峰の向こう側は岐阜県となる。稜線を行く登山者は東に南アルプスや八ヶ岳、さらに富士山。西にははるか日本海を望む。
⑥「新雪の南アルプス北部と富士山」
(伊那市高遠上空から/長野・山梨県境)
南アルプスは、大きく深い。峻険な山容の多い北アルプスに対し、南アルプスはゆったりとした重厚な山並みが続き、稜線間際まで森林限界となる。しかし、実際に登るとなると登山行程は長く、アプローチ(登山口)からの高度差をしっかり登り切らなくてはならない。それだけに登山者は少ないが、南アルプスの魅力は奥深い。
南アルプスは長野県と山梨・静岡県と県境を接している。北部には伊那市側からの南アルプス林道があり、専用バスで北沢峠まで登れる。峠は山梨県との県境で、甲斐駒ヶ岳、仙丈岳の登山口ともなっている。その登山コースからは霊峰・富士山も間近に望める。県境の山からは新たな世界が見える。
⑦「北アルプス・槍穂高連峰厳冬」
(北アルプス湯俣上空から/長野・富山・岐阜県境)
槍・穂高連峰は岐阜県との県境にある。北アルプス・表銀座コースして抜群の人気を集める燕岳~大天井岳~槍穂高連峰だが、さらに南下すると乗鞍岳、御嶽山へと続く長大な山域である。
雪をまとった槍穂高連峰は神々しい。山襞はくっきりと現れ、大自然の厳しさと荘厳を強調する。なかでも槍ヶ岳はその鋭峰がひときわ際立つ。北・東・西・南へと大きく尾根を張り、その頂点に鋭い岩峰を持つ。北アルプスの中心にあって、その盟主として方位を示すかのようだ。尖峰の彼方には広大な富山平野や日本海、さらに加賀白山を望むことができる。
厳冬期の北アルプスは、山のエキスパートだけの世界である。
⑧「南アルプス・御来光」
(中央アルプス・千畳敷カールから/長野・山梨・静岡県境)
中央アルプス千畳敷からの御来光。元旦を挟んだ数日のみ、ここ千畳敷から南アルプスの山稜のかなた、富士山から登る御来光を見ることができる。日一日と御来光はわずかずつ南へと移り、1週間ほどで富士山を望むそのドラマチックなシーンは終わる。
千畳敷からは南北に広がる伊那谷をはさんで、南アルプスの全山容が展開する。正月明けはそのちょうど真ん中、農鳥岳あたりから御来光が登る。すぐ右手には富士山がシルエットをみせる。
御来光はみるみる上昇し、千畳敷カールの雪面も赤く染めてゆく。ふと振り返ると、カール一帯も聳える宝剣岳もモルゲンロート一色に染まっていた。
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