地域文化連載「風土が育む 郷土の食」

Vol.09  とうじそば 松本市奈川

「喜びの時をともに味わう」

臼の軽さよ 相手の良さよ
相手変わるなよ エー 明日の夜も
ハー ごんごらしょー ごんごらしょー

そばひけども そばもちゃくれぬ
婆さしわいか ええ粉がないか
ハー ごんごらしょー ごんごらしょー
(石臼ひきの唄)

 松本市奈川を通る野麦街道は、かつて日本海から飛騨に入った「飛騨ぶり」などの海産物を人の背(ボッカ)と牛の背(尾州岡船)で信州へ運搬する重要ルートだった。明治時代には製糸業の隆盛とともに、飛騨の製糸工女が野麦峠を越えて岡谷地方とを往来した。野麦峠のふもと、川浦地区には宝来屋(建物は現在「松本市歴史の里」に移築)をはじめ数件の宿屋があったと、亘亘(わたりわたる)さんは道案内をしてくれた。
 奈川村は明治の末まで田がなく、畑から収穫する穀物はソバ、アワ、キビ、ヒエ、大豆、小豆が中心であった。昭和のはじめまでは3食のうち2食はそばが主食であったため、すいとん、けもち、うすやき、焼き餅などに工夫され食べられた。
 「とうじそば」は奈川に古くから伝わる郷土料理で、根曲がり竹で編んだ柄杓型のとうじかご(スイノウ)にゆでそばを入れ、さまざまな具を煮たてた温かい鍋にかごごとそばを浸し、しゃぶしゃぶのようにさっと温めて食べる。そばをつゆに浸ける事を「湯じ」といい、これが「とうじ」の語源といわれている。朝の連続テレビ小説「おひさま」でヒロインの結婚式に出されたように、婚礼や年取りに饗されるハレの食であったと宝来屋の末裔、奥原愛子さんは話してくれた。「とうじそば」はそば食としては手が込んでおり、具はキジなどの肉とともに、きのこ、山菜や旬の野菜を入れる。かつては味噌仕立てもあったが、今は醤油で味付けすることが多いとされる。
 寒い季節に鍋を囲み「とうじそば」を食べながら家族の会話が弾むのは奈川の伝統である。

(地域文化No.102・2012秋号 掲載)

松本市奈川

とうじかごに入れたそばをさっと温めて具とともにいただく

そばの焼き餅

松本市歴史の里に移築された工女宿 宝来屋の内部

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