地域文化連載「風土が育む 郷土の食」

Vol.08  ニジマスの円(つぶら)揚げ 安曇野市明科

「鮮度がもたらすかたち」

 昭和30年代、子どもたちは裸で夏の犀川へ飛び込んだ。土手際の藻が茂っているあたりにざるを差し込み、ごしごしと揺さぶると、勢いのいいジンケン(オイカワ)やニガッパヤ(アブラハヤ)、フナが入っていた。上級生は、道具を使わず手づかみで魚をにがんだ。

 犀川は、西から流れる高瀬川と穂高川を安曇野市明科で集め、生物多様性が高く、国道19号線とともに、北に流れていく。遠く西を見れば、ゴジラのような岩肌の信濃富士(有明山)が仁王立ちしている。明科は豊かな地下水に恵まれ、それを利用したニジマスの養殖が盛んである。大正15年、県営犀川ふ化場、昭和13年に長野県水産指導所(水産試験場)が設けられて以来、明科は長野県の水産業の中心となっている。

 ニジマスのから揚げは、身がくるっと丸くなっていて、円(つぶら)揚げと呼ばれる。高原正雄さん(70歳)は、「水揚げ後、直ちに料理しなければ丸くならない。鮮度が大事だ」と教えてくれた。ニジマスを背開きにし、はらわたを取り除き、水洗いをして水気をしっかりふき取る。間髪入れずに小麦粉をまぶし、揚げると、ニジマスの筋肉が生きているうちに急速に加熱されることで、皮と身の収縮率の違いからくるりと丸くなるという。

 滝沢幸子さん(83歳)は「一度目は、中温でゆっくり、二度目は170~180度の高温でカラリと揚げます。醤油、砂糖、味醂を3:2:2の割合で合わせたタレを、アワがぶくぶく出るまで煮詰め、揚げたてのニジマスを入れます」と説明しながら手際よく料理を進める。庭で採った柏っ葉を敷いた皿に、から揚げを盛りつけて出来上がりだ。
 円揚げは、ハレの食であるが、二度揚げで魚特有の臭みが消え、頭も尾も食べられるのでカルシウムも摂取でき、学校給食でも重宝されている。


(地域文化№101・2012夏号 掲載)

身が丸くなった揚げたてのニジマス

一度目は中温でゆっくり、二度目は高温でカラリと揚げる

タレを煮詰めて揚げたてのニジマスに絡める

柏の葉の上に盛り付けて完成

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