ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.14 気持ちを一つに船を曳く 穂高神社のお船祭り

毎年9月27日、安曇野市の穂高神社で行われる「お船祭り」。祭りの最大の見せ場は2艘の大人船のぶつけ合い。勇壮で豪快な姿に観客から大きな歓声がわきます。祭りの"華"は3艘の子ども船と2艘の大人船。そして、この5艘の船を飾る「穂高人形と飾り物」。
かつては、青年団の活動が盛んで船づくりや人形作りの技術が大人から青年層へ、また、親から子へと受け継がれていました。しかし、時代の変遷のなかで、制作に従事できる人が減少。さらに、地元3地区(穂高区・穂高町区・等々力(とどろき)町区)に一人ずついる人形師の高齢化などがすすみ、祭りの維持が難しくなりました。こうしたことに危機感を感じた地元の人びとは、平成11年に保存会を設立し、後継者の育成に乗り出しました。現在では月2回、3人の人形師による人形作り教室が開かれています。
人形作りは、歴史上の史実や昔話などの場面設定から始まります。場面を考えるには歴史の勉強も重要。場面設定から人形制作に至るまで、一人で何役もこなせる人形師になるには、何十年もの経験が必要とされます。
「まずは地域の文化を知り、興味を持ってもらう。そして、その伝統文化を守るために何ができるかを一緒に考えていきたい。特に若い人の力が必要です」。保存会長の高橋歳秀さん(70歳)の言葉に、この祭りを大切に思う一途な気持ちを感じました。
祭りの当日、観客をわかせた大人船のぶつけ合いの後、船の中から「あー、楽しかった」という満足感あふれる若い声が聞こえました。
故郷の祭りに参加し、楽しさを実感し、地域を誇りに思う。それが伝統文化を守り伝えていくための大事なきっかけになるのではないでしょうか。

等々力町区の子ども船「牛流教室の平成17年の子ども船のテーマは“さるかに合戦”。子どもに親しみを持ってもらうことを考えて設定しました」

「教室によって、作る人によって顔が違う。作る人の顔になるんだ」。牛流(ごりゅう)弘次さん(82歳)の手で、表情豊かな人形が作られます

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