ふるさとの文化財を守り伝える心

Vol.13 地域に伝わる伝統神楽を守る 上今井諏訪神社太々神楽保存会【伶人会(れいじんかい)】

文部省唱歌「故郷」の作詞者・高野辰之の出身地で知られる旧下水内郡豊田村(現中野市)。千曲川の流れに沿った西岸に上今井地区が広がります。北信濃の長い冬が終わり、春の陽射しが差し込む頃、上今井諏訪神社の境内に神楽の囃子の音が響き渡ります。上今井諏訪神社の太々神楽(だいだいかぐら)は、明和6年(1769)に神楽殿が竣工された際に奉納されたのがはじめと伝えられています。出雲系神楽の大和舞と明治初期に創られた吉備楽(きびがく)という新しい曲が加わり伝承されているところが、この神楽の特徴です。現在舞われているのは17座で、そのうち10座ほどが毎年奉納されています。
江戸時代からの伝統神楽を正しく後世に伝えていこうと、大正15年(1926)に伶人会(れいじんかい)と呼ばれる保存団体が発足しました。この伶人会は、神社に伝わる神楽を継承し、奉納するだけでなく、後進の育成や近隣の要請に応じて神楽奉納に出向いたり、雅楽の講習会などにも参加して技の向上にも努めています。伶人会の会員数は、大人11人、子供8人。会員は以前にくらべ増えていますが、無報酬のうえに、衣装代などの諸費用は自己負担。それでも子供に伝統ある舞を舞わせたいと入会を希望する親子が少なくないそうです。伶人会会長の神田茂一さん(83歳)が「昔から伝わる舞の形を変えずに舞い続けていくこと」や「子供に伝統的な舞を正しく教え伝えていくこと」の大変さをしみじみと語ってくださいました。
伶人会では、昔からの大和舞と吉備楽に加え、昭和15年(1940)に創られた浦安の舞を導入しました。また、100年以上前に奉納された笛や太鼓といった楽器が今も大切に保存され、使い続けられています。
新しいものを受け入れながら、昔からのものを大切に守っていく。地域の住民が一つにまとまり、自分たちの祖先が大切に守ってきた伝統文化を守り続ける。こうした姿に、今の私たちが忘れている「大切な何か」を重ね合わせての取材でした。

上今井諏訪神社太々神楽(昭和46年県無形民俗文化財選択 4月20 日に近い日曜日に開催)「浦安の舞」上今井地区に新しく導入された。稚児4人で舞う優美な舞

「翁の舞」毎年必ず舞われ、最も人気のある座の一つ。この翁面の裏に「文政十年」の刻があり、神楽の歴史を知ることができる

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